2018年8月

難しい日本語

フィリッポ 濱田了神父

35年ほど前、ローマに留学していた頃の思い出です。

イタリアの学校では一般に9月頃から新学年が始まり、6~7月頃に学年末テストがあって、その後夏休みに入ります。教皇庁立の大学では夏休みが3か月以上になってしまいます。

わたしが滞在していた修道院の玄関番にスペインのバスク地方出身の老修道士さんがいて、ローマに着いたばかりのわたしに、「ローマでは聖アントニオ(6月13日)から夏が始まり、聖ボナベントゥラ(7月15日)からは煉獄になる。だから皆、ローマを逃げ出してバカンスに出かける」と教えてくれました。

彼は元々キューバの宣教地に行く予定だったのですが、ローマで研修中にキューバ革命が起こり、そのままローマに留められてしまったのです。彼に与えられた派遣書は「キューバ」のままなので、入国できる日を30年ほど待っていたわけです。その老修道士さんは、過去にローマ留学した日本人のフランシスカンを良く覚えていて、名前を挙げて「今はどうしている?」と何度も尋ねてきました。まあ、70歳を超えていたので仕方ないのですが、その都度「元気にしているよ」とお相手しました。

彼によるとバスク語と日本語には、よく似たことばがあるそうです。例えば「食べる」ということを "HAM" と言うそうで、わたしの名前 "HAMADA" は「食べちゃった」という意味だとか。確か、日本の古語で「食む」(はむ)とも言いますので、なるほど良く似ています。過去に来日した宣教師の中でもバスク地方出身の方は、日本語の習得が早かったのを思い出します。聖フランシスコ・ザビエルもバスク地方の出身です。個々の単語が似ているだけでなく、文法の方はそれ以上に似ているそうでしたが、詳しく尋ねるにはわたしの語学力が不足していて、説明するのも難しく、質問を理解してもらえませんでした。

日本語は周囲の国々の言語とだいぶ異なり、言語学的に孤児のようですが、バスク語も同じです。イタリアで聞いた冗談では、「昔々、神様が悪魔を懲らしめるために、バスク地方に閉じ込めました。すると、ことばがあまりに難しかったため、悪魔は1か月ほどで回心したそうです。そこで神様が哀れに思って悪魔をバスク地方から出してやったところ、たちどころに悪魔は、バスク語と回心したことを忘れてしまったとか」。

日本語も同じように難解だと言われると、この国に生まれ育ったのが何かの罰なのかしらと考えてしまいます。だから互いのコミュニケーションが難しいのだと、ほおっておく言い訳にもなりませんが。

教会報 2018年8月号 巻頭言

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