2017年10月

フランシスコ会のカルワリオ ― ラ・ヴェルナ

ヨゼフ 松井繁美神父

ラ・ヴェルナはアシジから北の方へ約60キロ。
アペニン山系に属する標高およそ1,300メートルの山。中腹は草で覆われているが頂上はぶななどの大木が繁る。静かに黙想するには最高の場所と思われる。
今でもここにはフランシスコ会の隠遁所があり、かつてここには日本で宣教していた一人の修道士の兄弟も1年間隠遁して祈りの生活を送ったことがある。
今では実に大勢の巡礼者が訪れる巡礼地となっているが、皆深い祈りの心で巡礼していると感じる。私自身も何度か訪れている。
このラ・ヴェルナが「フランシスコ会のカルワリオ」とも言われるところである。

「グレッチオでのクリスマスを祝った翌年の1224年の夏、フランシスコはアシジの北方数十キロのところにある人里離れたラ・ヴェルナ山へ赴く。彼は8月15日の聖母マリアの被昇天から9月29日の大天使ミカエルの祝日まで40日間の断食をし、静かな祈りの時を過ごそうと思ったのである。(中略)不思議な出来事が起こったのは、9月14日の十字架称賛の祝日であった。
キリストが現れ、フランシスコの胸と手足には、傷痕が刻印された。それはキリストが十字架の上で受けた五つの傷と同じものであった。聖痕と呼ばれるものである」
(川下勝著『太陽のうた』)
フランシスコは次のような祈りを捧げていたと言われる。
「主よ、死ぬ前に二つの恵みをお与えください。それはおん身の痛ましいご受難を、わが身において出来る限り経験すること、および おん身が私たちのためにご自分を犠牲として屠られたその同じ愛を、おん身に対しても抱くことです。」(ボナヴェントウラ)
ラ・ヴェルナで40日間の断食を終えて、アシジのポルチウンクラに戻ることになる。病気のためもう二度と愛するこの山に来ることは出来ないと分かっている。そのフランシスコが、ここを去る時にこんな言葉で別れを告げたという。
「さようなら!さようなら!アルヴェルナ山。
さようなら!天使の山。さようなら!なつかしい山よ。
さようなら!兄弟なる鷹よ、私にしてくれたお前の親切にもう一度お礼を言おう。
さようなら!突き出た岩よ、私はもう二度とお前を見ないだろう。
さようなら!天使の聖マリア小聖堂よ。永遠のみ言葉のおん母、ここにいる私の子らをおん身にゆだねます。」
実はこのフランシスコの別れの言葉は、誰か他の者によって作られたもので、フランシスコ自身によるものではないとされている。しかしフランシスコがどれ程この場所を愛したか、ここで出会った動物や自然をどれ程愛したかが強く伝わってくるのである。

サン・ダミアノで「フランシスコ、壊れかけているわたしの教会を建て直しなさい」という十字架上のイエスの声を聴いて以来、確かにフランシスコの中では常にこの声が響き続けていて、十字架のイエスに従って歩み続けようとしたフランシスコの生涯であったと言えるのでしょう。

9月17日はフランシスコの聖痕の祝日でした。そして10月3日はフランシスコの帰天を記念し、10月4日にフランシスコの祝日を皆さんとともに祝うことができました。フランシスコがこよなく愛したキリストの道を、これからもともに歩んで行きましょう。

教会報 2017年10月号 巻頭言

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